もう一人の主役(37)

京大病院小児科に「楽しい時間」をプレゼントしていらっしゃるボランティアグループ
にこにこトマトさんのニュースレターに04年10月からへなちょこなコラムを書かせていただいています。
コラムのタイトルは「もう一人の主役」。神田さんがつけてくださいました(わーい)。

弟と私(19)
弟のそばにいるために私は家から通える学校を受験し直すことになり、予備校に通う毎日が始まりました。行きたかった大学をあきらめなければならなかった私と、あきらめさせなければならなかった母と、なんとなく自分のせいかなと感じている弟と…あんまり一緒にいると、私の心の中の、悲しい気持ちや悔しい気持ちを閉じ込めた箱のふたが何かのきっかけで開いてしまいそうで、私はできるだけ家にいなくてすむよう、春休みから予備校の自習室に1日中こもるようにしていました。 
自宅に東京の受験校から合格を告げる電話がかかってきた時も、私は予備校の自習室にいました。家でその電話をとり、断り、冷静でいることが自分にできるとはどうしても思えませんでした。もちろん、母にこの電話をとらせて、断らせることの残酷さもよくわかっていたので、自習室で1日中、自分を責めていました。帰る前に家に電話をし、合格だったことを知りました。電話を切ったら緊張の糸も切れて、私はその場で座りこみ、泣きました。家では泣けないから、泣くのはこれで最後だからと心の中で繰り返し言い訳していました。
予備校生活は想像していたよりずっと明るくて、いろんな場所から、いろんな境遇の人が集まっていました。それぞれの生活や人生があり、それぞれの苦労があり、夢があり…私の狭い狭い世界はまた少しひろがりました。良い経験だったと思います。
予備校に通わせてもらいながらも、私は自分がすすむべき道を迷っていました。最初に行った予備校の事務の人の「弟が病気だからって福祉に向いてるわけじゃない。甘い気持ちで選ばない方がいい。」のお説教や、父の「大学に行きたいっていうお前のエリート志向なところが気に入らない。」の言葉は心に刺さったまま、自分の選んだ道を進もうとするとちくちくと痛むような気がしました。
迷いを抱えたまま夏が来て、オープンキャンパスの季節になりました。とりあえずこの1年間しか私には猶予がなく、新たな夢をみつける時間もなく、でもこの道を進むのは気が重い…そんな気持ちで行った大学で聞いた、社会福祉学部の先生のお話が、私にとっての光になりました。福祉にはソフトハートとハードヘッドが必要だというお話。優しい気持ちと、考える頭、両方備えられるよう学びたい、とにかくこの先生のお話をもっと聞きたい、と、私はまたすばらしい人と出会って、再び頑張る気力を得たのでした。