2019年3月21日「ドナルド・マイヤー氏講演会 in Osaka」第2部では、しぶたね清田から、「きょうだい支援リーダー会議」の報告をさせていただき、マイヤーさんと会場の参加者の方からコメント、ご意見をいただきました。
この会議はタケダ・ウェルビーイング・プログラムの助成をいただいて2回開催したもので、「病気」「障がい」「精神疾患」「グリーフサポート」「ヤングケアラー」等さまざまな分野できょうだい支援を進めておられるリーダー的存在の方に集まっていただき、現在の日本のきょうだい支援の到達点と今後進むべき方向性を確認することを目的に開きました。
第1回は17団体26名の参加者で、事前に記入し共有した「※団体紹介シート」をもとにそれぞれの実践についてご発表いただいて共有。第2回は15団体28名の参加者で、残りの団体の実践発表を終えた後、参加団体の活動を「分野」と「活動対象のきょうだいの年代」の2軸でホワイトボードにまとめ、課題を整理しました。
※団体紹介シートの項目は、基本情報のほか、「活動の目的」「活動内容」「きょうだい支援において、『実はこういうことも重要なのでは』と感じていること」「国内のきょうだい支援について、足りなかったり課題だと感じていること」「この会議に期待すること」でした。
次世代育成のために参加いただいた若子静保さん(東京大学教育学部3年)が整理してくださったデータをもとに、アドバイザーの吉川かおり先生(明星大学人文学部 福祉実践学科 教授)の助言をいただいて、各支援団体のプログラムの開始時期や、同時期に生まれた新たなきょうだいプログラム等を調べてまとめ直しました。
2001年にドナルド・マイヤーさんが初めて来日された時の国内のきょうだい支援活動はまだわずかです。1963年から活動を始められた「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会」や、1998年に生まれた「きょうだい支援の会」など、大人向けのプログラムが行われる中で、図に書き込めていない、さんだ子ども発達支援センター「かるがも園」の「きょうだいとお父さんお母さんのデイキャンプ」(2000年~)や、公益財団法人がんの子どもを守る会のきょうだいの富士山登山企画(2000年~)などはあったものの、子どもきょうだいへの支援がほとんどない状況でした。
ドナルド・マイヤーさんが、2001年(きょうだい支援の会主催)、2005年(きょうだい支援を広める会主催)、2008年(日本自閉症協会主催)と3回にわたって来日され、子どもきょうだい向けプログラム「シブショップ(Sibshops)」ファシリテーター養成トレーニングが行われました。その受講者による活動立ち上げを中心に、子どもきょうだい向けプログラムが増え始めた時期です。
さらに10年ほど経過した現在、新しい形のきょうだい支援も生まれています。たとえば、病院内のプログラムであったり、若い世代のきょうだい向けの場や大学生による大学内でのきょうだい会の誕生、ピアサポートではない形のサポート(CANで行われている個別カウンセリングや「Sibkoto(シブコト)」による、きょうだいの体験や声を集めたインターネット上のプラットフォームの開設)、海外で行われているプログラムの導入、リーフレットや冊子などのツールの作成、社会に向けた啓発、保護者向けのプログラム、きょうだい支援を行いたい支援者向けの研修なども加わりました。
さまざまな分野のきょうだい支援をまとめることで見えてきたことを話し合いました。
図にしたことで18歳(大学生)くらいのラインが子どもきょうだい向けのサポートと大人きょうだい向けのサポートの切り替わり位置になっていることが見えやすくなりました。たとえば病気分野の大人きょうだい向けのピアサポートの場がほとんどなかったり、他の分野でも、子どもの頃にきょうだい会に参加していなかった高校生や大学生がいきなり大人きょうだいのピアサポートの場に出向くのは敷居が高かったりする、しかし高校生や大学生くらいの年代が、自身のきょうだいとしてのつらさに気づくタイミングとして多い、ということを課題に感じている団体も多く、そこをうまくつなげる仕組みがあるとよいのでは(大学内や若い世代向けのきょうだい会の充実、出向いて顔を合わせる場だけでなく、Webでつながったり情報を得たりできる場の活用)という意見がありました。また、子どもきょうだい向けのプログラムを実施している団体から、ボランティアとして参加しているきょうだいの立場の大学生どうしが仲良くなり、自然にピアサポートの場になっていることがあるという話もありました。
子ども向けのきょうだい会を運営する団体と、大人向けのきょうだい会を運営する団体との連携や、分野を超えた横断的なつながりがあまり見られないことも課題ではという意見もあり、今回のリーダー会議をそのきっかけに、今後ネットワークを維持していければと考えています。
現在行われているきょうだい支援の課題について、まず米国と違い、きょうだい支援が職業として成り立っていないこと、家族支援サービスの中にきょうだい支援が体系的に組み込まれていないことが、きょうだい自身にとっても、支援を行う人にとっても、安定した支援になっていないことが共通して挙がっていました。
他には、家族まるごとを支援する視点から、きょうだい支援のための保護者支援が必要なのではという意見や、きょうだい支援に熱い思いのある人が、所属する組織の他の職員との温度差を感じて悩んだり、孤立しがちという現状から、支援者が孤独にならない工夫が必要なのではという意見、病院や施設だけでなく、きょうだいが日中の主な時間を過ごしている「学校」や、生活の場である「地域」がきょうだいに理解のある場になることが重要なのではという意見、きょうだい支援が家族支援のメニューのひとつに組み込まれ、自治体等の事業の中でも展開されることもきょうだい支援の広がりに必要なのではという意見が挙がりました。
公的なきょうだい支援として、たとえば、現状では、「放課後等デイサービスガイドライン(2015年)」や「児童発達支援ガイドライン(2017年)」の中で、きょうだい支援の必要性についてふれられています。
小児医療分野でも、厚生労働省の小児慢性特定疾病児童自立支援事業の中に「きょうだいへの支援」が登場したり(2015年)、「医療的ケア児等総合支援事業」の予算案の中に「きょうだい児への支援」が加わるようになりました。公費でのきょうだい支援のシステムが整備されていくよう、引き続ききょうだいの声を届けたいと思います。
マイヤーさんもご講演の中で「きょうだい支援の必要性は少し話せばわかってもらえることが多い」とお話されていましたが、きょうだいたちの抱えるしんどさを知ってもらえさえすれば、きょうだいへのまなざしがあたたかになることは日本でも同じと感じています。そこで、社会に向けて、きょうだいときょうだい支援への理解が広がるよう、啓発活動に力を入れていこうと計画中です。
まずは米国で広く祝われている「きょうだいの日(Siblings Day)」を日本でも定着させるために、219名の制定発起人さんと共に日本記念日協会に申請し、認定されました。制定発起人第1号には、米国きょうだい支援プロジェクト創設者のドナルド・マイヤー氏に、第2号には同プロジェクトの現ディレクターであるエミリー・ホール氏になっていただきました。
この日が、自身の兄弟姉妹や、天国の兄弟姉妹、兄弟姉妹のように大切に思っている人に思いを馳せる日としての「きょうだいの日」になるとともに、病気や障がいをもつ子どもと大人の「きょうだい」にも応援の気持ちの届く優しい「きょうだいの日」になるよう広げていきたいと考えています。この日の前後できょうだいのためのイベントが開かれたり、きょうだい支援活動の資金集めにつながっていくように、みなさまと盛り上げていけたらと思っています。よろしくお願いいたします。
以上の発表について、マイヤーさんからは「20年足らずの短い期間でこれだけのことを成し遂げた国は他にない。」「日本でもアメリカでもほかの国でも道のりが長いのはどこも同じだけれど、重要なステップを踏んでいる。」とコメントいただきました